渚ようこ様、あなたの訃報を聞いてもう何時間も経つけれど、まだ受け入れることができません。
いま、頭の中はあなたとの思い出で一杯です。
初めて「渚ようこ」という存在を知ったのは、2006年のことでした。
当時阿久悠さんのマネージメントをしていた三田完さんの紹介で、渚さんのアルバム「渚ようこ meets 阿久悠 〜ふるえて眠る子守唄」のジャケットを依頼された時でした。
渚さんは阿久悠さんの流れで上村一夫のことを知り、ファンになってくださったとのこと。
また、三田さんから渚さんはゴールデン街で偶然私の名前と同じ漢字の店「汀」も経営していると聞き、なんとなくご縁を感じたのを憶えています。
出来上がったCDは私が初めて聴くタイプの音楽というか、懐かしい歌謡曲の雰囲気だけど、渚ようこという人の個性が今っぽくもあり、そこに阿久悠さんのすごい歌詞があって、少し混乱するくらい興味深いものでした。
リリース後、しばらく経ってから初めて三田さんに連れられてゴールデン街の「汀」を訪問したのですが、確かその日は渚さん少し遅れてきて、店の外で待っていた私たちのところへママチャリ飛ばして来てくれたんですよね。
とにかく歌が凄いし、昭和歌謡へのこだわりもすごそうだから、正直会うのに腰が引けてたのですが、そのママチャリ姿がなんとも可愛らしく、緊張もすぐに溶けました。
その翌年、阿久悠さんがお亡くなりになり…あのアルバムは本当に貴重な作品となりましたね。
CDジャケットで終わらず、その後も渚さんと交流するようになったのはやはり「汀」という場所があったからかもしれません。
最初は父がいつも間にいる感じで仲良くなっていったのだと思うのですが、いつの間にか父抜きで語り合える人になっていました。
お酒の飲めない私にはハーブティーを入れてくれたようこちゃん。(ここからようこちゃんと呼びます)
「汀」という場所は人間交差点なので、立ち寄るといつも不思議なことや面白いことがあって(よく絡まれたりもしましたが)、本当に異空間でした。
たまに店で開いたシークレットライブも濃密で美しく、今となっては夢のような時間でした。
↓「汀」のコースター。
ようこちゃんは父とは会っていないのだけど、「上村さんはきっと可愛い酔っぱらいだった」と言ってくれました。
家族からしたら全然可愛くない酔っぱらいだったので、そんなこと言ってもらえることが新鮮で、そんな風に思えるようこちゃんがますます好きになりました。
↓ようこちゃんが好きだったであろう酔っぱらい。
この写真はようこちゃんと作ったミニ画集「渚の女」の最後のページに収録されています。
そして忘れもしない2011年、初めてようこちゃんと上村一夫のコラボが実現しましたね。
場所は神楽坂のArtdish。
Ardishは沢渡朔さんのお嬢さんが経営するギャラリーで、森山大道さんの写真展が開かれたり、渚さんは以前からそこで何かできたらと考えていたそうです。
タイミング良く沢渡さんからも渚さんに提案があり、それならば上村さんの絵と一緒に何か、とようこちゃんが提案してくれました。
タイトルは「渚の部屋」。
せっかくなので、絵のセレクトは全部ようこちゃんの好きな絵にしよう!となり、我が家で半日以上かけて絵を選びましたね。
そして空間のレイアウトも手作りで、ようこちゃんがせっせと家のプリンターでプリントした絵を壁紙にして一部屋埋め尽くしたり。
夜遅くまで皆で作業したのも今となっては良い思い出。
↓「渚の部屋」フライヤー。こちらもデザインはようこちゃんがプロデュース。
↓ようこちゃんがせっせとプリントアウトした壁紙。貼るの大変だった〜。
↓作業中にポーズを決めるようこちゃん。
↓壁にシールを貼るようこちゃん。
↓完成に満足のようこちゃん。
会期中はようこちゃんのエレガントなライブも開かれ、その時初めて「同棲時代」をカバーしてくれました。
あの感動は凄かった。
その後も「同棲時代」を歌い継いでくれて、もう感謝しかありません。
↓会場で歌うようこちゃん。素敵。
「渚の部屋」の会期中、沢渡朔さんとフォトセッションもしましたね。
キュートなレトロファッションとヘアメイクで七変化するようこちゃんが、上村一夫の絵の中で動き、それを巨匠・沢渡朔さんが撮る、という、夢のような空間でした。
その後、その写真は「ゴールデン歌謡・第1集 さすらいのギター」のジャケットに使われたり。
また、色とりどりのお洋服や可愛いアクセサリーに囲まれ、いろんな髪型で七変化するようこちゃんを見て、こんな風に自分を楽しむことを忘れていたなあ、とハッとしたのを憶えています。
↓沢渡さんとのフォトセッションの様子
↓ヘアメイク中のようこちゃん
「渚の部屋」でより近い存在になったようこちゃん。
その後も歌を聴きに行ったり、お店に行ったり、サ店でだべったり。笑
原画展にも毎回来てくれましたね。
↓nosotos booksの展示にも遊びに来てくれたようこちゃん
昨年のリサイタルでは、なんと上村一夫の絵がプリントされたドレスを着て歌ってくれましたね。
実はこれ、ずっとやりたいねと二人で話していたことで、イメージソースは内田あかりさんの「浮世絵の街」。
これを着て歌ってくれた「同棲時代」は最高に素敵でした。(三輪二郎くんのギターも!)
↓写真は渚さんのTwitterからお借りしました。(撮影:池田敬太氏)
いつも沢山いろいろな話をしてくれたようこちゃん。
あなたとのご縁は阿久先生や父が繋げてくれたものだけど、仲良くしてくれてありがとう。
思い出の一片を辿っていたら、ようやくあなたが逝ってしまったのだという実感が湧いてきました。
悲しくて悲しくてやりきれないけれど、もしあちらの世界があるならば、阿久悠さんやうちの父とこころゆくまで語り合ってください。
みんなに愛された昭和歌謡の歌姫、渚ようこさん。
あなたとの出会いに感謝します。
どうか安らかに。