三田完さんの新刊「黄金街」は、表題含む6篇からなる短編集。
大事に少しずつ読もうと思ったのに、読み始めたら最後、その流れるような美しい
文章と、粋なお話に引き込まれ、あっという間に読んでしまいました。
珠玉の作品集と呼ぶにふさわしい一冊です。
昨年2月、表題の「黄金街」を小説現代に発表されたとき、ちょうど渚ようこさんと
神楽坂で「渚の部屋」原画展を開催しており、三田さんも会場に来てくださいました。
帰り際、不在だった渚さんに「これを渡しておいてください」と三田さんから
封筒を渡されました。
三田さんがお帰りになった後、到着した渚さんに渡した封筒の中身が
「黄金街」のコピーでした。
さっそく読み始めた渚さん、次第に読むことに集中し始め、最後にはポロポロと涙を
流していました。その姿は今でも忘れられません。
三田さんの洞察力と人の心を動かす文章の力、そしてそれを読む渚さんの強い感受性
を目の当たりにして凡庸な私は小説を読まずして十分感動してしまったのだと思います。
いまあらためて読む「黄金街」はそうした想いも入り交じった特別な作品です。
それから、頭から離れないのは「通夜噺」という作品。
このお話を読んで私は上村一夫の「凍鶴」を思い出しました。
お鶴ちゃんが若い噺家と出会い、別れを経験する切ない切ないお話です。
人を笑わせる職業の裏にはなんともいえない切なさがつきまとうのでしょうか。
三田さんも父も人の心の機微を察知する名手、という共通点があるのかもしれません。
歌謡界、歌舞伎、俳句、などの世界に精通し、自ら楽しみつつ粋な物語にしてしまう
三田さんこそ誰より芸達者だと私は密かに思っています。
今年の黄金週間に珠玉の「黄金街」。おすすめです。