下北沢駅北口に古くからある書店。
昔は確か白百合書店と呼んでいたと思う。
小学生の頃、父は忙しさの絶頂だったからいつも仕事をしていたけれど、
たまに日曜日休みを取った。
そんな日は夕方になると「行くか」と私を本屋へと誘う。
無言で父の背中を追い 、本屋へ着けばそれぞれ勝手に本を探す。
しばらくすると「なんかある?」と父が言ってくる。
いま思えば何冊でも買ってくれたのかもしれないが、控えめに2、3冊を差し出す。
「行くか」と「なんかある?」だけ。休日の父は静かだった。
久しぶりにその旧白百合書店で本を買ったからなのか、ふと古い記憶が甦った。
娘という存在にどうしていいかわからない不器用な男のその声を突然思い出した
春の一日。
人さらいのおっちゃんか