わが友 阿久悠
上村一夫著「同棲時代と僕」より
フリーのイラストレーターとなって日々を過ごしていた時期があった。
フリーといえば呼び名はいいが、実は無職の絵描きなので仕事があればなんでもやるという状態であった。
そんな時、平凡社から仕事をもらい平凡パンチのさし絵を描いた。絵の下の方に小さく上村一夫と恥ずかしそうに名前も入っていた。
それから二・三日過ぎてから、阿久悠という名の手紙を受け取った。知り合いの中にそんな名の人物はいない。売れていないのに脅迫状でもないだろうと思って封を切った。
「昔、宣弘社時代に共に働いていた深田です…..」という始まりで、「…一度会いたい」と書いてあり、五・六年振りに再会した。後で阿久悠氏が語るには、「上村一夫という男が昔いて必ずいつか出てくる。出てくる本は絶対に平凡パンチだ。だから平凡パンチは見ておいてくれ。」と奥さんに頼んでおいたそうで、私の小さく書かれた名前を奥さんが見つけたそうだ。宣弘社時代「深田さんはいい人ですね」と私も言わないし、「君はいつかいい絵を描けるよ」と阿久氏も言わない部分が本当の友情ではないだとうか。それ故、再会は非常に嬉しかった。
人と人との出会いにおいて、「やあ、こんにちは」「ああ、どうもよろしく」というのは嫌いである。ふと気がついた時、そこにその人がいて、いつのまにか親しくなって行く、それが男の出会いではないだろうか。
(途中略)
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歌謡史に偉大なる功績を残された阿久悠さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。